その八 巡視

 TKさんは七十歳、でも年齢の割には元気です。修養科は二回目です。人生の経験も十分あり、修養科の経験もあるので、クラスの中では長老のような存在です。

 若い子たちが騒いでいると厳しく注意します。TKさんの一言は重みがあり誰もが一目置く存在です。

 一ヶ月目の下旬から特別ひのきしんが始まります。これは全員でやるのではなく、選抜された人が行うひのきしんです。TKさんもこの特別ひのきしんに選抜されました。

 特別ひのきしんが始まって数日経った日に、TKさんが三番の組係に「巡視に来なかったね」と言ったのです。担任である私の耳にも入るような声で言ったのです。これは、組係に言ったのではなく私に言ったのだと思いました。

 その次の日から特別ひのきしんの巡視を始めました。大浴場、食堂、神殿とうちのクラスの人が当たっているひのきしん現場を、飴の袋を持って廻りました。「ご苦労さん、熱中症対策だよ」と言って飴を渡すと、にっこり笑ってまた頑張ってくれます。最初はうちのクラスの人だけに飴を渡したのですが、途中から一緒にひのきしんしている人にも渡したので、二十個位入っている飴の袋を十五袋買うことになりました。

 同じ飴ばかり持って行ったら、「また塩飴!」と言われたので、ちょっと変わった種類の違うを飴を持って行きましたら、「やったー」と言われ、飴でこんなに喜んでくれるのなら安いものだと最後まで飴配りは続けました。

 誰でも、しなければならない事は辛くても頑張りますが、一言「ご苦労さん」と声を掛けてもらったら、また頑張れるのです。その事をTKさんに教わったような気がします。