いんねん寄せて

 息子の正直さんがやって来ました。

「よお、正直か」

「おやじ、元気か」

「何か用事か?」

「いや、特別用事は無いんだけど」

「珍しいな、お前が用事がないのにここに来るなんて」

「用事が無くて来て悪かったな」

「たまには酒でも飲むか?」

「いいね」

 と云うわけで酒盛りが始まりました。

「今の会社はどうだ」

「居心地は悪くないな。今まで片意地張って働いていたのが馬鹿らしく思えるよ」

「給料は安くなったんだろう」

「給料は安いけど、仕事は面白いよ」

「ただ、上司がね、偉そうな奴でね、この前喧嘩してしまったんだ」

「オレは何でも知っているから、オレの云う通りにすれば良いんだ、と云いやがるんだ。俺よりも若いくせに」

「ほう、不思議だな、昔のお前と同じじゃないか。お前も昔はそうだったんじゃないか」

「そうかもしれないな、昔は責任を持たされて俺がやらなきゃと無理していたのかもしれないな」

「部下を信用せず、大事な事は全て自分がやろうとしていた。だから、部下には信頼されず、優秀な人間はみな離れていく、残ったのは仕事の出来ないイエスマンばかりだった」

「神様は、いんねん寄せて守護する、と云っている」

「同じような性格の人間が、仕事や結婚や遊びなんかでもやってくるんだ。でも、神様は、お前を救けたい、またお前に相手を救けてもらいたいと思って、そのような出会いをさせているんだよ」

「そんなもんかな?」

「お前が経験したことを相手に話して、お前と同じような過ちを起こさないようにさせることが、お前の使命かも知れないな」

「今は何となく分かる。自分が経験したからこそ言える事があるからな」

「おやじ、今日はありがとう」

「お前にお礼を言われると、こそばゆいな」