雪の日

 今日は数十年ぶりの大雪が降りました。少し集めると雪だるまが出来そうな程積りました。

 ゆめちゃんは大喜び、お兄ちゃんと雪合戦をして遊びました。雪国の人にとっては悩みの種の雪も、子供たちにとっては遊び道具です。

 温暖化のせいもあってか、昔に比べて日本全体で雪の量が少なくなりました。江戸時代の終わり頃は、大和地方も大雪が降ったのです。

 お母さんはゆめちゃんに、ある大雪の日の話をしました。

 その日は今日のように大雪が降り、それも吹雪いていました。増井りんさんは、この大雪の最中を朝河内の村を出て、お屋敷に向けて歩いていました。増井りんさんは後に教祖のお側で仕え、女性で唯一人の本部員となった方です。

 途中から風が強くなり、額田部の高橋の所まで来ました。この橋は幅九十センチ程の欄干のない橋であったので、りんさんは川に落ちないように跣足になって這うようにして進みました。

 橋の途中で何度か落ちそうになりながら、『なむてんりわうのみことなむてんりわうのみこと』と、一生懸命にお願いしつつ、やっとの思いで高橋を渡り切りました。そして、午後四時頃やっとお屋敷へたどり着いたのでした。

 つとめ場所の、障子を開けて、中へ入ると、村田イヱが、「ああ、今、教祖が、窓から外をお眺めになって、『まあまあ、こんな日にも人が来る。なんと誠の人やなあ。ああ、難儀やろうな。』と、仰せられていたところでした。」と、言いました。

 りんは、お屋敷へ無事帰らせて頂けた事を、「ああ、結構やなあ」と、ただただ喜ばせて頂くばかりでありました。そして教祖へ御挨拶に上がると、教祖は、

「ようこそ帰って来たなあ。親神が手を引いて連れて帰ったのやで。あちらにてもこちらにても滑って、難儀やったなあ。その中にて喜んでいたなあ。さあさあ親神が十分々々受け取るで。どんな事も皆受け取る。守護するで。楽しめ、楽しめ、楽しめ。」

と、仰せられて、りんの冷え切った手を、両方のお手で、しっかりと お握り下されました。それは、ちょうど火鉢の上に手をあてたと言うか、何んとも言いあらわしようのない温かみを感じて、勿体ないやら有難いやらで、りんは胸が一杯になりました。

「ゆめちゃん、教祖はどんなことも見抜き見通しなのよ。だからどんな辛い事でも苦しい事でも、教祖が見て下さると思えば、頑張れるのよ」

「うん!分かった」